「っ・・・はぁっ・・・」



必死になって 走って

全力疾走して





「・・はっ・・・はっ・・っ」





ふと 後を振り返り・・

君は何を思うだろう・・?




Other side of a door




もうどれぐらい走っただろう
かれこれ3時間は経っている気がする
夏とはいえ、夜は寒い。汗の所為で体は冷え切ってしまっていた
ふと立ち止まり、空を見上げた

「・・・・志乃」

夏の夜空はとても綺麗で星のひとつひとつが、明るく輝いていた
その星を見ていると自分の恋人を思い出す



□■□

恋人の名前は『水瀬 志乃』
年齢は18歳。だが童顔でパッと見、少女かのように思うぐらいだ
彼女は元々、呼吸器官の病気でずっと入院をしていた
ひょんなことから知り合って、それから俺はずっと彼女の傍に居た
一緒に居れば居るほど段々、お互い惹かれ合って付き合うことになった

「ねぇ、稔〜」
「どうした?」

『稔』と、そう呼ばれたのは志乃の彼氏である 『佐伯 稔』
彼はS大学、陸上長距離の期待のエースだった

「林檎食べたいから、切って〜w」
「・・はいはい^^」

ベッドの上にあるスライド式のテーブルの上に置いてあるバスケットから林檎を取り出した
そして近くのデスクの引き出しから果物ナイフと皿を取る
そして、慣れた手付きでその林檎を剥いていく

「あ、ちなみに兎さんにしてね?」
「OK。志乃は兎好きだねぇ」
「うん! だって、可愛いもの」

リクエスト通り、林檎の皮を兎の耳にして彼女に渡す
彼女はその林檎を見つめて『こんにちは』と言った

年の割りに幼い彼女を俺はとても愛しく思っていた
そんな幸せな日々は、彼女と出会ってからずっとそうだった



君と出会ってからの 時間

あの頃は 短く感じていた



でも彼女は、これから来る未来を予想していたのだろうか・・?



「ありがと♪ 稔って本当に手先器用だね〜」
「そうか? 覚えれば誰でも出来ると思うけど・・?」
「本当?! じゃあ、私に教えて?w」

稔の方に近付き、楽しそうに目を輝かせる
しかし、稔は志乃の手先の不器用さを分かっている為

「あ、でも志乃はダメだぞ。どうせまた、途中で出来ないって泣くんだから・・」
「むっ・・泣かないよー!!」
「さぁ〜どうだろ?」

彼女が拗ねているのを見て、稔はクスクスと笑っていた
最近の彼女は、とても明るかった。だが、それと同時に発作も頻繁に起こるようになった
彼女のその明るさは、まるで発作の苦しさを紛らわすものかのように見えて仕方ない

「・・・・コホッ」
「志乃、最近発作多いみたいだって聞いたけど大丈夫なんか?」
「大丈夫だよ〜w 軽い発作ばっかだし」

そう彼女はいつもと同じ笑顔、いつもと同じ答えで返した



□■□

しかし、それから数日が過ぎたとき
いつものように志乃の見舞いに病室へ向かった
すると、彼女の病室に医師や看護師達が頻繁に出入りしているのが見えた

「?・・・どうしたんですか??」

そうドアの近くにいた一人の医師に尋ねた
その医師は悲しそうな、哀れというような・・そういう表情をしていた

「???」
「稔・・!」

病室の中から出てきたのは・・稔の父でもあり、志乃の担当医でもある『佐伯 晴彦』
彼の顔も先程の医師のような表情だった

「親父、どうしたん?」
「志乃が・・」

父の表情を見て直ぐに察知すべきだったのか、「志乃」という言葉を聞いて稔は病室の中へ入った
ベッドの上には赤い液体・・血が付いていた
そして血と共に、血まみれになっている志乃がベッドで横になっていた

「・・・し、の?」

志乃に手を伸ばし、頬に手を当てる
どことなく体温が低いように感じた。その瞬間、稔は恐怖感に怯えた
そして肩を掴んで揺らす

「志乃?!・・志乃!!」

揺らしても反応はなく、稔の声はだんだん震えてきた
まさか・・という考えが思考を横切る

「親父!!なんで?!」
「また発作を起こして、そのまま目覚めないんだ・・」

メ   ザ   メ   ナ   イ

そう父は言った。稔はもう一度、聞き返す
父は黙って頷いた。稔は志乃から離れ、父の肩を力強く掴む

「しかし、まだ生きてはいる。だが心拍数は弱く、いつ止まるか分からないんだ」
「・・・・そんな・・志乃」

肩を掴む息子の手に触れる
その手は震えていてそれを感じているだけで辛いものだ
父から離れ、志乃のベッドに座る

「・・・志乃」

ベッドが軋む音が重く心に響く
彼女の頬に手を伸ばし、そして触れた
その時、ピクッと彼女の睫が震えた

「・・志乃?? 志乃!!」
「・・・み・・・の・・る」

彼女の名前を呼び続けた。大きな声で連呼し続ける
徐々に彼女の目が開いている

「・・・み、のる??」
「あぁ、俺だよ。 志乃・・あぁ・・・良かった」

志乃が目を開けたことによって、稔は安心感を覚えた
しかし、次の彼女の言葉でまた稔の心臓は重く何かが圧し掛かったようになった

「稔・・ごめんね。私・・もうダメみたい」

その言葉がとても辛くて、その言葉を信じたくなかった

「な、なに・・言ってんだよ・・?」
「ごめんね。稔・・大好きだよ」

信じられない。そんな目で彼女を見る。頬に触れていた手はベッドの上に置いた
すると志乃は『あのね・・』と口を開いた
その瞬間、もう志乃には生きたくても生きれないのだと稔は分かった













「あのね、稔・・・最期だからよく聞いてね?

1年前のあの日、私達は出会ったよね

それから どのぐらいの月日が流れたんだろ・・

まだ 出会って、付き合って 全然短い時間だけど

貴方を全力で愛した

でもね、いつかこうなることは分かってた

ねぇ、稔。最期の我侭聞いてね

いつか 貴方はまた好きな人が出来る

でもね お願い 次に好きになる人は

私よりも 綺麗で、普通の人を好きになってください

あとね もう一つお願い

貴方は 強い人だから・・ だから お願い

過去は振り返らないで

何事も前向きに生きてください

それが私の最期のお願いだよ・・」




その言葉で、稔は胸の奥から込み上げてくる感情が、そのまま涙となり頬を伝う
そして志乃は全身の力を振り絞って、腕をあげ、稔の頬に触れた

「稔、愛してるよ。だから泣かないで??」

そう体を起こし舌で涙をすくう
そしてまたベッドに寝て、稔を見つめていた

「・・志乃・・あ・・いし・・てる」

震える手で彼女の頬に触れ、そしてキスを落とす
触れては離れ、そしてまた触れる。それを繰り返していた

「志乃・・愛してる・・だから・・」
「ごめんね? 稔・・ありがとう」

そう静かにいつもと同じ表情で笑った
そして、そのまま静かに目を閉じていった
その時、志乃の目に溜まっていた涙が流れた

「志乃・・? 志乃・・!?」

肩を揺らしても、名を呼んでも決して目を覚ますことはない



二人はずっと 一緒だと思っていた


だけど もう二度と戻れない




彼女に顔を寄せ、涙を舐めた
そして頬を撫で、そのまま口付けを交わした








□■□


それから月日は止まることなく、淡々と過ぎていった
そして今日、稔は綺麗に輝く星を眺める
夜空に大きく手を伸ばした。だけど、それは届く筈もなく手は大きく宙を舞う

「・・志乃。明日は俺の最後の大会だ。お前の為に勝って、メダル貰ってくるから。だから そっちで俺の勇姿見てろよ?」

そう夜空の星達に向かって叫んだ
そしてまた、稔は走り出した。明日の優勝に向かって
そして 空で見ている彼女を想って・・・













必死になって 走って











全力疾走して















ふと昔を思い出しても・・
















君は怒らないでくれるかな・・??





+END+


こんなもので良かったらどうぞw
誤字、脱語ありましたら指摘ください。 全く確認してないので・・・;;
それと、題名の訳は「扉の向こう側」です


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